青の書斎

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古今和歌集・春歌上・2番歌「袖ひちてむすびし水のこほれるを 春たつけふの風やとくらん」

・詞書

春たちける日よめる

 

・作者

紀貫之

 

・歌

袖ひちてむすびし水のこほれるを

春たつけふの風やとくらん

 

・訳

袖が浸かって結んだ水が凍ったのを

春立つ今日の風がとかしているだろうか

〇31文字に一年を収める

袖が浸った状態で水を手で結んだ夏。月日は過ぎ、やがて厳寒の候に。袖を浸していた水辺も凍ってしまったが、立春の今日吹く風が、今頃それをとかしているだろうか…といったように、31文字を読むことで、春夏秋冬の移ろい感じることのできる一作になっています。

 

〇体感的な描写

初句から二句にかけて夏の描写があります。袖が浸かったまま手で水をすくうということは、のどの渇きを潤したかったのでしょうか。川か湖かわかりませんが、水の流れる音や、ヒヤッとした手触り、周囲の自然音が聞こえて来そうです。

一方、冬になりその水が凍ってしまうと、水は流れるのをやめてその場に留まります。鳥たちも夏のような元気な声を聞かせてはくれません。

理知的な味わいの巻頭歌に対して、五感に訴える描写が作品の核になっています。

 

〇凍った水を風がとく

凍った水を立春の風がとかすというのは、リアルな物理現象を言っているわけではなく、一つの比喩として捉えるのがいいように思います。立春の日に風が吹きわたり、野や里に春の到来を知らせる、そんな季節の変わり目を表すたとえですね。

 

それにしても、結句に爽やかな風を残すこの余韻、素敵です。

 

次回、3番歌に続きます。