青の書斎

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~母の言葉~『クイーンズ・ギャンビット』第4話「ミドルゲーム」

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第4話の「ミドルゲーム」を見てきました。内容的には中々重いところもありましたが、前回の「ダブルポーン」とは違った舞台で展開されるストーリーが新鮮でした。

 

〇「ふつうの女の子」としての人生も、アルマは応援

ベスは以前言っていた通り、ロシアの強豪ボルゴフとの戦いに臨むため、学校でロシア語の勉強をします。ベスは男子学生から興味を持たれ、彼らの主宰するパーティーに参加。そこは男女の集ういわゆる「遊び部屋」で、ハイになるための薬を吸ったり酒を飲んだりスキンシップをしたりと、自由奔放な空間となっています。

濡れ場もありますが、独りよがりな男の所作に、どうもベスとしては不満足な様子で、いっそコミカルと言っていいくらいの描き方になっているところがユニークでした。性にオープンなご家庭なら、皆さんで一緒に見てもいいと思いますが、結構「攻め気味」のカットがありますのでご注意ください…(笑)

恐らく人生初の朝帰りコースとなったベスですが、養母のアルマに電話を掛けるシーンは結構緊張感がありますね。彼女がどういう反応を示すのか、すごく気になる。でも、ベスが初めて男と一夜を過ごしたことについて「チェスだけが人生じゃない」と言って笑顔を見せているので、娘の成長として喜んでいる様子。もちろん、避妊について気を配るように、釘だけは差しますけどね。

もしかしたら、血のつながりがないからこそ「まだほんの子供なのにアンタなにやってんの!」という頭ごなしの叱責にならないのかもしれません。そのおかげで冷静に娘の行動を受け止められるというか。

〇アルマの言葉

「知識より大切なものがある」
「直感は本の中からは得られない」
「リラックスしなければ力は発揮できない」

大会前日、ホテルの室内でチェスの勉強にいそしむベスを見て、アルマは様々な言葉をかけます。あら、以前にも同じようなシチュエーションがあったような。ベスがチェスの勉強中に、アルマがホテルのテレビを大音量で観ながら笑いこけて、彼女をイライラさせるということがありましたよね。

またこのパターンか、と。ベスが静かに勉強してるんだから、放っておいてあげてよ…と思ってしまうところですが、なんだかんだ説得された結果、動物園へ遊びに行くことになりました。そこで今回の強敵・ボルゴフの姿を見かけるんですよね。距離こそ10メートルほど離れてはいますが、思いがけぬところで出会ったことで、ベスの心に緊張が走ります。ある意味、チェスから離れて遊びに行っても、対局という運命からは逃げられないというような暗示にも思えるようなシーンでした。

それでも、アルマの助言にベスは助けられたようです。ジョルジ・ギレフという年少者との戦いに苦戦を強いられるのですが、封じ手を用いた2日がかりの対局も、後半は余裕をもって指すことができ、相手を圧倒します。その様子は一手指すごとに離席して遠くから対局相手を眺めるという、挑発的なものでしたが、先の「リラックスによって発揮される力がある」とのアドバイス通りの運びとなった点は見逃せません。

〇再び”一人”に

ボルゴフはエレベータの中で「彼女(ベス)は孤児で、チェス以外に生きる道はない」といったことを、仲間と相談し合います。ベスと乗り合わせていることは知らなかったので、話を聞かれてしまったことを彼らは気まずく思ったようです。

ボルゴフとの対局後、アルマはアルコール過剰摂取を原因とする肝炎によって、ホテルの室内で死んでいる状態で見つかります。この別れによって、ベスはまた「一人」になります。というのも、養父の方は妻のアルマをほとんど気にかけておらず、訃報を入れても死因すら聞かない無関心な有様だったので、ベスの側から電話を荒々しく切ってしまうわけですね。養父の素っ気なさは昔からのものだったので、ある程度こうなることはわかっていましたが。

アルマがホテルのロビーでピアノを演奏し、聴衆たちから拍手を受けるシーンでは、彼女が人前で演奏することのできない「あがり症」を克服したかのようにも思えました。これが彼女にとっての最後の晴れ舞台だったわけです。酒浸りだった彼女の人生に、少し光が差したように見えた分、突然の死は受け手にとっても辛いものとなりました。

ラストカット手前の旅客機内で、隣の空席に向かって乾杯するベスの目には涙の跡が。養母アルマとの関係は、もうベスにとって表面的なものではなくなっていたことがよくわかるシーンです。つらいですね。

そうなると、この第4話で初めてアルマのことを「お母さん」と呼んでいたのは、二人目の母の死につながる伏線だったとも言えるわけで、辛い結果となりました。

(第5話につづく)