青の書斎

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~上の句の「?」と下の句の解決感!~古今和歌集・春歌上・6番歌「春たてば花とや見らむ 白雪のかゝれる枝にうぐひすの鳴く」

・詞書

雪の木にふりかゝれるをよめる

 

・作者

素性法師

 

・歌

春たてば花とや見らむ 白雪のかゝれる枝にうぐひすの鳴く

 

・訳

春が立ったから花と見るのだろうか

白雪のかかっている枝に鶯が鳴く

 

〇見どころその1 雪を花に見立てる優雅な表現

立春の日を迎えたとはいえ、目に映るのは枝に雪のかかる冬景色。そんな折にウグイスがやってきて一声を放つと、まるでウグイスが雪のかかった枝を、梅花の咲く姿に見まがい、やって来たように思える、そういった趣の歌です。早く温かい春が来て欲しいという作者の気持ちが、ウグイスの声・姿をきっかけにして、「白雪」を「花」に見せたわけですね。

〇見どころその2 ウグイス君の勘違い、ユーモラスな趣

「白雪のかゝれる枝」とありますが、雪のかかった枝といっても、とくべつ花の咲く様子に似ているというわけではないように思います。これはあくまで「見立て」の歌です。ある程度素材がそろったら、そこを起点に想像の世界へと飛翔してしまえば、歌の味わいが広がって、歌人ごとの個性も出しやすくなります。同じ景色を認めても、そこから思いつくものは歌人によって異なるというわけですね。
素性法師のこの作品は、あたかもウグイスが雪と花とを見間違えてしまったかのように表現しており、おっちょこちょいというか、お茶目な雰囲気の作に仕上がっています。

〇見どころその3 ストーリー構成の妙!上の句の謎と、下の句の解決感

上の句には「春が立ったので、花と見るのだろうか」とだけあり、何のことやら測りかねます。そもそも「花と見る」という動作の主が、誰なのかわかりません。この受け手の頭の上に浮かんだ「?」を解決するのが下の句です。そこで、下の句の始まりを見てみると、「白雪」ですから、「春」とか「花」というワードからはかえって離れてしまいました。そして、この二者をうまく結びつけるのが「うぐひす」の存在です。「花と見る」の動作主は「うぐひす」とわかったので、彼が花の近くに寄って来るのも納得がいくし、そう考えるとウグイスが「雪」のことを「花」と早とちりしているようで可愛らしく思えてきます。
こういったように、歌全体の趣意を俯瞰的に見るのではなく、初めて歌に接するかのように順を追って展開を確かめると、小さな物語になっていることに気づかされます。この感動が31文字にギュッと詰め込まれていることは、大変趣深いことです。また、すべての句に一つずつ体言が散りばめられるバランスの良さも特徴的ですね。

 

初句「春」

二句「花」

三句「白雪」

四句「枝」

五句「うぐひす」

 ※厳密には、三句・四句はまとめて「白雪のかゝれる枝」という大きな体言になる

 

次回、7番歌に続きます。