青の書斎

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~赤い十字架の示す少女の運命~『クイーンズ・ギャンビット』第1話「オープニング」

〇少女はチェスに出会い…

ちょっと前から気になっていた連続ドラマ『クイーンズ・ギャンビット』を見始めました。これはチェスの世界を舞台に描かれるストーリーで、ときは1950年代。母の死に伴い児童養護施設に入った主人公の少女・ベスは、地下室でひとりチェスをたしなむ用務員・シャイベルに出会い、瞬く間に腕を上げていきます。

〇第1話の概要

ベスは児童養護施設で授業を受けますが、時おり黒板消しを地下ではたいてくるように命じられます。地下には休憩中の用務員・シャイベル老人が一人チェスに興じています。初めは「女のやるものじゃない」と彼女を寄せ付けないシャイベルですが、ひとりでに駒の動きを覚えてしまったことがきっかけで、少しずつチェスを教えます。とはいっても、彼は基本的な型を示してやるくらいで、指導をほとんどせずとも、彼女は自分の頭の中で盤面をイメージし、次々とシミュレーションを重ね、あっという間にシャイベルには手の付けられないほどの指し手になってしまいます。
シャイベルの紹介でハイスクールのチェスクラブに招待されたベスは、12面同時対局という熱烈な歓迎を受けます。しかし、彼女にとっては全く物足りず、簡単にねじ伏せてしまうのでした。
施設に戻ったベスは、お土産のチョコレートを頬張りながら、男たちの「軟弱ぶり」をシャイベルに語りますが、その後は薬の禁断症状によってイラついたり、薬を手に入れるために施設内で犯罪的な行為に走るなど、破滅感を呈するようになります。

〇見どころその1 少女の成長と薬物…光と影のまざる複雑さ

『クイーンズ・ギャンビット』の面白いところは、単に少女が鬼のような才覚を見せてチェスの腕を上げていくというサクセス・ストーリーではない点です。彼女にとっての不幸は、唯一の肉親である母を喪い児童養護施設に入ったことだけでなく、薬物を飲まされてしまったことです。
しかし同時に、この薬物がきっかけとなり、チェスの学習において類まれなる集中力を発揮し、力をつけたようにも描かれています。チェスプレイヤーとしては幸福なことかもしれませんが、人としての道は踏み外しているといわなければなりません。
子どもに薬物を与えるなんて…と、その不道徳さに嘆かされたかと思えば、ベスの圧倒的なチェスへの適応力に目が離せなくなってしまう。この、光と影の混ざった複雑な成長過程の描写に魅力を感じてしまいます。

〇見どころその2 天井のチェス盤

就寝時に緑色の薬を飲んだベスには、窓から天井に差し込む木の影が、やがてチェス盤のチェック柄に見えていきます。薬物の覚醒作用か、あるいは幻覚症状によるものでしょうが、これを機会にベスは様々なシチュエーションを幾度もシミュレーションし、チェスのうでを上げていくわけです。
天井に逆さ立ちする駒たちとそのおぼろげな描写が、おぞましい感じもするし、また不思議で興味をそそるようでもあります。

〇見どころその3 十字架を背負わされた少女

第1回のラストシーンでは、皮肉にも救済の象徴であるはずの赤十字マークが、人々の罪を背負って命を絶ったイエスの「十字架」のように、ベスの背後に控えるのでした。このカットに登場する赤十字は、ベスが抜け出してきた上映室で放映されている作品が『聖衣』であることからも、薬物依存という人の罪の象徴として映しているように考えられます。一方では、チェスプレイヤ―として生きていく、彼女に背負わされた運命を暗示するものかもしれません。

〇う~ん、でもちょっとドキドキさせすぎ?

映画の上映中、ベスは皆の目を盗んで、薬を手に入れます。目的の薬は鍵のかかった部屋に保管してありますので、地下の工具を拝借して無理矢理こじ開けるわけですね。当然、犯罪といっていいようなことをやっているので、視聴者の側はドキドキさせられます。こういった演出はいい意味で映像作品に緊張感をもたらし、受け手にとっては手に汗握るスリリングな展開として親しまれていますが、余り長すぎるとストレスが溜まってきます。
何といっても、上映中の音がすぐ近くで聞こえるほど、薬の保管庫は隣接しているのです。帰りの遅いベスを先生たちが見回りに来ないか、他の生徒がたまたまベスのいる方にやってこないか、見ている側はヒヤヒヤです。個人的には、ちょっとこのヒヤヒヤタイムをもう少し縮めてもいいんじゃないかな?と感じました。

 

次回、第2話。

どうぞお楽しみに。