青の書斎

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~恐怖!逆接待…そして、“2人の山岡“~『美味しんぼ』第4話「活きた魚」

〇第4話の概要

舞台は秋の軽井沢。

大日エレクトロン社のゲストハウスに招かれた谷村部長・山岡・栗田は黒田社長が自ら振舞うシマアジを味わいます。しかし、その場に居合わせた子どもが「うまくない」と苦言を呈し、ワンマン社長・黒田は怒りをあらわにします。対して、山岡は子どもを援護。よりうまいシマアジを食べさせると啖呵を切ります。翌日、山岡は海から上がったばかりのシマアジをその場で活〆し、黒田社長のシマアジと味比べ。山岡の出したシマアジの方がうまく、黒田社長はおごった態度を反省し子どもにも謝意を示します。

さて、今回も緊迫感のある見どころがたくさん!

 

見どころその1 窓越しの風と、シーンの橋渡し

谷村部長が「あれが大日エレクトロンのゲストハウスだ」と言うのに呼応して、栗田さんは窓を開けて歓声を上げます。それまで静止していた髪が風になびいていますね。車の中にいながら、外の空気と触れ合っています。車中で過ごすシーンから、車を降りてゲストハウスへ向かう、その橋渡しの役割を担うカットと言え、目的地への到着間際の高揚感を演出しています。

 

見どころその2 恐怖!逆接待

大日エレクトロンの黒田社長は自他共に認める食通で、食べるだけでは飽き足らず料理の腕も職人顔負けとのこと。招かれたゲスト達は調理場の設備の素晴らしさ、シマアジの刺身の素晴らしさを口々に褒めます。黒田社長は謙遜して「いやいや、そんなことは」と言いますが、語気や表情をうかがうに、彼が有頂天であることを理解するのに時間はいりません。その場に居合わせた誰もが招待してもらっている身で、相手は世話になっている大会社の社長ですので、元より称賛以外の言葉を発する術もないわけです。このことから、実は、黒田社長が来賓を接待しているのではなく、自分を褒めさせるために招待客を次々と呼び出しているという構図が見て取れます(逆接待)。社長の思い上がった性質は、冒頭に谷村部長から説明のあった「ワンマン社長」という形容が、既に暗示していました。

 

見どころその3 ふたりの“山岡”

この回の面白いところは、山岡的な存在が2人いるということです。1人はもちろん山岡士郎本人ですが、もう1人は黒田社長が同席させた自社社員の息子(幼児)です。この子どもは、ゲストハウスのロビーでサッカーを始めてしまうなど、自由奔放。両親はその場その場で叱りを入れますが、おこまりの様子。その後も「板場に入ってみたい」「(シマアジの泳ぐ水槽を見て)水族館みたい」など、たくさんのゲストがいる中で歓声を上げます。周囲の大人達は、子どもの天真爛漫さがおかしくて、声をあげて笑い合います。
しかし、さらに盛られたシマアジを口にすると一変して「このシマアジはおいしくない」と言い、場の雰囲気を凍りつかせます。初めは黒田社長も「子どもには難しかったかな」などとかわしていましたが、「そうは言ってもまずいものはまずい」との怒涛の追撃(笑)を受けて、さすがに不快感を露わに。両親はその場で土下座して赦しを乞いますが、社長は「せっかくの会がめちゃくちゃ」と難じ、所属部と名前を問います。すると、すかさず秘書が情報を公表。ほとんど「逆らうものはこうなる」という見せしめのような運びに、山岡が「その子の言っていることは正しい」とフォロー開始。果たしてめでたく翌日のシマアジ対決へともつれ込むのでした。
社会的な繋がりが重荷となって大人が尻込みして言えないことを、正面きってぶちまけるのは本来山岡の仕事ですが、今回は子どもが先陣を切り、後詰(ごづめ)を山岡が担当するという構成になっています。第1話〜第3話の「山岡単騎切り込み型」とは別の味わいがあって面白いですね。

 

おすすめカット

実はこの回、いつも穏和な谷村部長が、山岡に対して「負けたら君だけじゃなく、東西新聞の問題にもなるんだぞ」と釘を刺しています。なかなか厳しい口調です。しかし、これはキャラクターが一定していないという設定上の粗ではなく、単純に他の上司が全員欠席だったからお鉢が回ってきたということでしょう。新入社員の栗田さんでは、叱り役としてもの足りません。ここは谷村部長が上から押さえつける素振りを見せておかないと、山岡の勝利に十分な番狂わせ感が出ませんからね。黒田社長の活〆したシマアジと、山岡の既に死んでいるシマアジ。この劣勢に加えて、上司からのプレッシャーや周囲からの落胆の声。まさに崖っぷちです。それでも、皆シマアジを食べてしまうと全員意見が180度変わってしまうわけですから、怖いものですね。谷村部長、いいお仕事でした。

 

次回、第5話レビュー。

お楽しみに。