青の書斎

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~折衝力抜群!谷村部長のありがたさ~『美味しんぼ』第2話「士郎対父・雄山」

〇第2話の概要

山岡士郎の父・海原雄山の初登場回です。

東西新聞の事業部が企画する印象派美術展の目玉作品として、京極万太郎氏からルノワールの作品を出展してもらうことになりましたが、奥野事業部長はその接待に失敗。山岡・栗田は究極のメニュー担当者として彼を接待し直すよう社主から命じられます。

辰や岡星の助けもあり接待は成功したものの、後日父・海原雄山東西新聞までやって来ると、山岡に対して「お前にものの味はわからん」と言い放ち、これがきっかけとなり対決へ。その内容は、優れた天ぷら職人を調理前に見抜くというものでしたが、雄山の鋭い洞察力に敵わず、罵倒され、その場を飛び出してしまいました。

しかし、かえって心に灯がともり、山岡は雄山打倒に向けて奮起するのでした。

 

見所その1 欄間越しに修羅場をのぞき込む演出

京極氏は奥野部長から接待を受ける際、季節外れの献立が連続したため腹に据えかねて怒り出します。半ば説教のように料理がなってないことを主張し続けますが、こんなシチュエーションには誰しも居合わせたくないもの。和室の欄間からひっそりとのぞき込むようなカメラアングルで捉えることで、空間がよそから隔絶された一つの密室であることを強調します。またその場の誰もが京極氏の剣幕に気圧され、固まって動けない「修羅場感」も醸し出しているように感じられます。

 

見所その2 音声と映像の意図的なタイムラグ

社主から再接待を拝命した両名を正面から映したのち、突然銀座の街並みに移ります。少し間をおいてから山岡の声で「分かりました、やってみますよ」と流れます。このセリフは社主室のカットで発されるのが自然ですが、それでは一本調子。あえて銀座の風景に移ってから過去のやり取りを再生することで、物語の進行がスムーズになっているように感じられます。大通りから路地裏へと、二段階に分けて目的の場所へフォーカスしていくプロセスもいい感じです。

 

見所その3 折衝力抜群!谷村部長のありがたさ

谷村部長(谷村秀夫)は、個性の強い『美味しんぼ』の面々の中にあって、ひときわ良心的・常識的な存在です。彼がその場にいるだけでも、視聴者を安心させてくれます。この回における谷村部長の言動を確認してみましょう。

  1. 「岡星」に案内されて怪訝な表情をする京極に対して「究極のメニュー」担当者をにこやかに紹介する。
  2. 京極に出された料理を見て富井副部長・奥野事業部長が取り乱す中、谷村部長も一度は「こ…これは」と声を荒げるが、そのあと冷静さを取り戻し、「山岡くん、これは一体?」と、事情を質そうとする。
  3. 京極が、出された米の産地を言い当てた際、栗田が称賛するのに呼応して「信じられん」と、すかさず合いの手を入れている。
  4. 京極が接待に満足し、ルノワールの作品を貸してくれることになった際、個人的な喜びを爆発させる周囲に対して、谷村部長は「京極さん、ありがとうございます」と謝意を先に示してから「よかった」と胸中を吐露している。
  5. 山岡の辞表に対して「君はそれほど究極のメニュー作りの仕事をするのがイヤだというのかね?」と、ここでもまずは事情を尋ねている。急ぎ足でダイレクトな質問をぶつける富井副部長の存在との間で対比が生まれ、冷静さが際立つ。
  6. 花村が話に割って入っても、機嫌よく「うん、誰だね?」と穏やかに対応する。
  7. ノーアポで東西新聞を訪れた海原雄山を丁重に歓待する。
  8. 海原雄山からの突然の依頼「翌日腕のいい天ぷら職人を何人か集めて、どこか適当な店を借り切ってくれたまえ」にも即座に対応。
  9. 海原雄山のことを知らない富井にも彼のことを懇切丁寧に説明する。
  10. 天ぷら対決の場で、山岡に対して特定の職人を選んだ根拠を尋ね、その説明に対して納得の意を示し、部下の努力をねぎらう。
  11. 父子の両方を立てるため、雄山に対しても職人を選んだ理由を訊く。
  12. 一度辞表を出した部下に対して再挑戦のチャンスを与えてその背中を押す。

 

探してみると谷村部長の活躍場面が思いのほか多く、第2話の影の主役は谷村さんではないかと思わされてしまいます。一方、富井副部長は役職に対して力不足である様子がたびたび描かれますが、その分、谷村部長の上司としての有能さや苦悩に深みが出るため、重要な役どころだと思います(ただ、富井さんは回を追うごとに声がどんどん甲高くなっていき、少々くどいところは否めないように思います)。

 

おすすめカット

谷村部長が海原雄山について説明したのち、山岡が地下鉄に乗るシーンへ移ります。その際、山岡の表情が地下鉄の窓越しに映るところが面白く感じました。車中の人物の顔が、走行中の車窓に映る演出はよくありますが、ホームに滑り込んできた列車の窓に、ホームに立っている人間の姿が映るのは、どちらかというと珍しいかな?という気がします。海原雄山に戦いをけしかけられて、山岡がどういう表情をしているのか気になるところですが、真正面から映さず、こういったギミックを通じて表現するところが、ひとひねりあって楽しいですね。

 

次回、第3話レビュー。

お楽しみに。