青の書斎

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〜「アムロとシャアの物語」はいかに継承されたか〜『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』映画レビュー

6月11日金曜日に公開された劇場作品『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』を鑑賞して来ました。

宇宙世紀シリーズの正当続編

本作は

機動戦士ガンダム

機動戦士Zガンダム

機動戦士ガンダムZZ

機動戦士ガンダム 逆襲のシャア

機動戦士ガンダムUC

に続く正当な後継作です。

○「アムロとシャアの物語、その先」

映画の公式Twitterアカウントには俳優・及川光博さんのコメントムービーがアップされています。観終えたばかりの新鮮な気持ちで、このコメントを軸に作品を振り返ってみたいと思います。

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ on Twitter: "ガンダムファン歴 42年 #及川光博 さんも大絶賛👏 「アニメを超えている映像作品」 シャアとアムロのその先の物語を 劇場で目撃せよ――💥 『機動戦士ガンダム #閃光のハサウェイ』 6.11(金)全国ロードショー #小野賢章 #上田麗奈 #諏訪部順一 #斉藤壮馬 #古谷徹"

 

【人物・物語を軸に】

このコメントを言葉通りに信じて劇場へ足を運ぶことについては、慎重になった方がいいように思います。

まず、作中の登場人物は殆どが『閃光のハサウェイ』のオリジナルキャラクターです。『機動戦士ガンダム』から『機動戦士ガンダムUC』までの過去の作品を観て、知っている人物が登場することを期待して映画を鑑賞すると、満足を得ることは難しいでしょう。主人公のハサウェイ・ノアについても、『Z』『逆襲のシャア』で登場した幼少・少年時代の彼とは違い、成熟した大人として描かれます。『逆襲のシャア』のワンシーンがフラッシュバックするカットもありますが、瞬間的なものです。途中、アムロ・レイの囁きが聞かれますが、これも同じです。

ストーリーとしては、わかりやすい構図になっています。地球の汚染を加速させる地球連邦政府に抵抗する「マフティー」という勢力は、グリプス戦役における「エゥーゴ」を思わせます。さらに言うと、正規軍である連邦に対して「マフティー」は人目のつかない場所にアジトを構えており、軍紀のようなものが余り感じられません。「エゥーゴ」よりもさらに、独自に活動する私(わたくし)の部隊という雰囲気があります。

モビルスーツを軸に】

閃光のハサウェイ』公式ホームページによると、登場メカは以下の通りです。

・Ξ(クスィー)ガンダム

ペーネロペー

オデュッセウスガンダム

・メッサーF01型

・メッサーF02型

・メッサーF02型 マインレイヤー

・メッサーF型 ネイキッド 指揮官機

・ギャルセゾン(SFS)

グスタフ・カール

・ケッサリア(SFS)

・陸戦用ジェガンA型 マン・ハンター仕様

・ハウンゼン356便

ジェガン」はほぼかつての形姿を留めますが、主役機にかつての「RX-78-2ガンダム」の面影を感じることは難しく、新作機体が多いように感じます。作品冒頭でティターンズ機「ギャプラン」の機影が確認できるのは、ちょっとしたファンサービスといったところでしょうか。しかし、「ギャプラン」も殺陣に参加することはないようです。

以上のように、登場人物・登場MSの両面から見て、往年の作品に深く親しんだファンを楽しませるというよりも、過去の世界観を踏襲しつつ、登場人物を一新して、ガンダムの新しい可能性を開拓する野心をみせた作品であると言った方がよさそうです。

そういったことから、本作は間違いなく「アムロとシャアの物語のその先」ではあるのですが、かつての作品の見慣れた風景を期待して見ると疲れてしまうでしょう。新しいガンダム世界を切り開く3部作の序章として鷹揚に受け入れるのがよさそうです。

また、先のツイートにおいて「(『閃光のハサウェイ』は)アニメ作品を超えている映像作品」と激賞する及川さんの様子が伺えますが、これはガンダムシリーズに対するご本人の思いと、お仕事としてのリップが半々くらいに混じったもの、というくらいに受け止めておいた方がいいように感じました。

 

○短い上映時間で、登場人物にどこまで共感させられるか

劇場版の強みは、なんといっても大迫力の画面と、体に「ぶつかってくる」といっていいほど力強いオーディオです。自宅では再現し得ない環境で、作品を体感することができます。その分、体への負担がかかるため、長時間集中することは難しい。長くても2時間ほどの上映時間の中で、映画の登場人物に観客の感情移入を誘う必要があるわけです。

TVシリーズなら、毎週放送されるたびに内容を反芻したり友人と話し合ったりして、登場人物の言動を検討することができます。そして、自分なりに消化したあとで、翌週また新しい放送回を迎える。この繰り返しを通して、作中の登場人物を好きなのか嫌いなのか、納得できるのか理解できないのか、といった具合に折り合いをつけてゆくわけですね。

しかし、劇場作品はその一作が全てです。もちろん『閃光のハサウェイ』は3部作ではあるのですが、だからといって序章のテンポが悪く、登場人物の言動にも共感できなければ、次作以降に対する期待は弱まり客足は遠のきます。そのため、TVシリーズよりもコンパクトでありながら、かつ面白く仕上げることが求められるのではないかと思います。

登場人物の性格を最も如実に示すものの一つにキャラクター同士の問答があります。『逆襲のシャア』における重要なやりとりの中に、ハサウェイ・ノアクェス・パラヤのコミュニケーションがありました。考え方の異なる二者が出会った際、互いにどういった反応を見せるかが見どころです。『閃光のハサウェイ』においては、クェスの代わりにギギ・アンダルシアという女性がハサウェイと問答を行います。

反連邦の活動を主導しつつも、タクシー内で「学が深すぎる」とのからかいを受け、それを後で思い出して迷いを見せる、ナイーブな一面を捨てきれないハサウェイ。一方、直情的にものを言う快活さをもつ一方、鋭い感性が時に己自身を傷つけてしまうこともあるギギ。出自も考え方も違う2人が今後どういった変化を見せてゆくのか、次作に注目されます。

○なんのかんのと言っても嬉しい新作!

とはいえ、機動戦士ガンダムの新作が公開されたことには違いありません。バトルシーンの演出もスピーディーで、緊迫感があり、Ξガンダムペーネロペーが劇場スクリーンを所狭しと雄飛する姿だけでも、モビルスーツファンにとっては大きな喜びがあるでしょう。ガンダムシリーズの最新作『閃光のハサウェイ』は、全国の劇場で上映中です。ぜひ一度、映画館に足を運んでみてはいかがでしょうか。

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』公式サイト